経済的及び文化的な現代化による伝統の崩壊により、現代人は自主的に行為決定の機会をより多く得ることができる、という主張が、一部の研究者達によって提唱されている。つまり、自由競争や規制緩和などを基礎とした市場経済の世界的な広がりやメディアの発達により、個人は伝統的な共同体や家族から離れ、自らの希望に沿った形で経済的・社会的行動を自分で決めることができるようになった、というものである。 しかし、この考えは非常に楽観的であると思われる。なぜなら、現代人全てが、自らの自主的な行為決定能力を行使できるとは限らないからである。自らの明確な考えや戦略的思考を持っているとしても、それらの能力の行使が制限されてしまう環境に置かれている人々も多いからである。 本論文では、事例研究という形で南投県仁愛郷に住むセデック族の日本語教育世代を取り上げる。この地域は、外部からの経済的・文化的に大きな影響を受けてきた。彼らを取り上げた理由は、現代化故に自主的且つ積極的な行動をとるのではなく、むしろそれらの行動が制限されていることが分かったからである。本論文では、なぜ彼らの自主的且つ積極的な行為が制限されてしまうのかを明らかにしていく。 |