武者小路を研究する学者は殆ど武者小路が西洋哲学思想の影響を受けたと強調している。しかし、亀井勝一郎、本多秋五、大津山国夫などの権威的な学者は、揃って武者小路が中晩年以降、東洋的な思想に転向していることを是認していた。 確かに、青年時代の武者小路は西洋の偉人や思想家のことをしばしば言ったり、書いたりしたが、中年以降それに代わって東洋と日本の賢哲や偉人をより多く語るようになった。 孔子の理念実践の意志と論語の多くの名言は武者小路の人生実践に、無類の影響を与えた。1926年(大正15年)から1941年(昭和16年)にかけて、武者小路は足掛け15年の間に連続して雑誌で論語についての雑感や孔子の小伝などの文章を十五篇以上発表していたのである。ここで、筆者が「武者小路における儒教思想」という題で、序言と結論のほかに、五小節にわけて論述したい。 (一)青少年期に受けた儒教思想教育、忠君愛国、倫理道徳の教育 (二)青年時期における西洋賢哲の思想への崇拝と思想の脱変 (三)論語の再読 (四)孔子や論語について書いた動機と態度 (五)論語に是認と感心した処と是認しない処 |