正当防衛とは,「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為」とされ,上記の要件を充たせば,「罰しない」という効果が生じる(刑法36条1項)。この「罰しない」という文言は,正当防衛の違法性が阻却されることを意味すると解されている。なぜならば,「不正な侵害行為に対する反撃としての正当防衛は,『正は不正に屈するに及ばず(正は不正に譲歩する必要はない)』(Das Recht braucht dem Unrecht nicht zu weichen)という基本的思想によって,早くから違法性阻却事由とされてきた」からである。また,ドイツにおいても,例えば,イェシェック/ヴァイゲントは,「正当防衛の基本思想は,たとえこの原則が社会的顧慮の思想から徐々に制限されてきているとしても,正は不正に屈するに及ばずという命題である」と指摘している。正当防衛状況に関して,日本では,「急迫不正の侵害」(36条1項)が用いられ,これに対応する概念として,ドイツでは,「現在の違法な攻撃」(ein gegenwärtiger rechtswidriger Angriff)(ドイツ刑法32条2項)が用いられている。 |