本シンポジウムの構想は、淡江大學日本語文學系の教員をふくむ研究者が4年あまりにわたって続けている読書會から生まれた。この読書會では、「満洲國」において刊行されていた『満洲浪曼』という文學雑誌などを読み、議論をかさねてきた。傀儡國家として成立した「満洲國」は、日本「內地」・朝鮮・中國・臺灣などから人々が集まり、さまざまな移動の実踐がくりひろげられる空間でもあった。當然のことながら、移動は「満洲國」にかぎった現象ではない。古今東西の人やモノの移動は、映射作品や文學作品においてしばしば主題化され、またさまざまな學術ディシプリンでその意味が論じられてきた。読書會での蓄積についても、他時空での事例へと視野を広げていくことにより、さらに考察を深めていくことができるだろうと考えた。もちろんこうした視點は、われわれの所屬先が看板にかかげる「日本」をめぐる支配的ディスクールをも問題化せずにはおかない。日本への移動、日本からの移動、日本における移動や流動性、そしてそもそも日本の內と外を分かつ境界の存在を前提とした思考など、批判的検討が必要なことがらは多い。 |