1997 年に理学博士遠藤誉は、自作『卡子(チャーズ)』の内容が山崎豊子の『大地の子』に「無断借用」されたという理由で東京地裁に訴訟を提起したが、結局原告の記述部分は「創作性がない」ため、敗訴の判決が下された。しかし、『大地の子』にまつわる盗用争議はその判決によって鎮まらない。実際に著作権法に保護されている対象はあくまでも創作性のある著作物なので、歴史的事実、アイディアといったことはその範疇に属するものではない。 本論文は、「盗作」疑惑と訴えられる山崎豊子の『大地の子』を創作表現の自由という視野で考察したものである。他人の記憶に残っている体験・歴史的事実・データあるいはアイディアは創作性がないため、それらをテクストに取り入れる創作表現を盗用として捉えようとする立場自体は、創作活動のあらゆる可能性を制限することになる。 |