本論文の主な目的は、動物に関する日本語の諺を例として、諺の意味を分析することである。 諺は、定形句の一種に属する。定形句は人々が社会生活を営んでいく中で、色々な生活場面や状況に対処していくためのことばとして、自然に生み出され、かつ伝承されてきたものである。動物語彙を用いる、日本語の諺には、「馬」、「犬」、「牛」、「猫」、「鼠」などの語彙がよく見られる。例えば、「馬の頭に牛の頭」、「飼い犬に手を噛まれる」、「鼠窮して猫を噛み、人貧しうして盗みす」などが、その好例である。 諺は、引用文並みのものであり、その語彙構造の入れ替えが、許されないものである。仮に語彙の入れ替えが出来てもごく一部に限られたもので、そのバリエーションとして見てよいと思われる。また、少数ながら、全く反対な意味を持つ諺も存在する。それは、諺の反義句といえよう。それに多義性を持つ諺もある。 意味論から見れば、諺の意味は、三種類に分けることができる。一つ目は、字面が示す通り、本義のみ使われるものである。二つ目は、派生義のみ使われるものである。三つ目は、本義・派生義両方とも使われるものである。 諺の意味についていえば、表層意味と深層意味との二種類が考えられる。表層意味とは、字面通りの意味である。深層意味は諺が派生義で使われる時の意味を指して言う。第二のタイプの、動物語彙を用いる諺には、その動物語彙自身の意味がなくなっていることが観察できる。 |