報告者は東京大学駒場キャンパスで、学部学生に「東洋古典学」という漢文入門のような講義科目を2年間担当したことがある(2013・14年度)。古代ギリシャ語・ラテン語を対象とする「西洋古典学」が独立した研究室(東京大・京都大・名古屋大)を有するのに対し、漢文を対象とする「東洋古典学」を標榜した組織はない。また、和漢古典籍や史料の整理研究を主目的とする機関も東京大史料編纂所や慶應義塾大斯道文庫など極めて限られている。かつて臨時的に設置された古典講習科(1882~1888年)やその意義を回顧しつつ開設された大東文化学院(1923年)の動きは遠い過去のことであり、中国・台湾の主要大学における古籍整理の組織や昨今の中国における儒教文献研究の振作、また韓国における古典文献の公刊・翻訳事業に比するとき、日本における古典学に対する取組みは活発とは言えない。 |