連作短編『一人称単数』に収録の「品川猿の告白」は、雑誌『文學界』(2020年2月号)に掲載されたものが初出で、この他、同短編集の各作品の初出は、「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」三つの短編は、『文學界』(2018年7月号)に掲載された『三つの短い話』の「その1」から「その3」で構成されているもので、「ヤクルト・スワローズ詩集」は『文學界』2019年8月号の「その5」、「謝肉祭(Carnaval)」は同12月号の「その6」同となる。また、本論の主題となる「品川猿の告白」は、そのタイトルから、『東京奇譚集』(2005年9月、新潮社)に収められた「品川猿」の続編だと見なされる。 こうした背景を持つ「品川猿の告白」であるが、研究史で数多く論じられてきてはいない。ただ、短編集『一人称単数』を対象とした数少ない先行研究においても、全作品を対象に論じられるものが見られる。無論、連作短編集『一人称単数』の中の一つとして書かれている「品川猿の告白」を、他の収録作品との関連に着目しての究明に意義があると思われる。さらに、前作の「品川猿」とのつながりも、重要視すべきであろう。その上で、連作短編集『一人称単数』にある八つの短編作品、あるいは前作の「品川猿」には、それぞれに、不思議な要素が込められており、個々の作品を論じることにも十分に意義があると思われる。 こうした点を踏まえ、本論は、〈逸脱〉という視座をもって、「品川猿の告白」を独立した作品として分析するもので、その論証方法として、まず、「僕」による話の構造に着目し、「品川猿の告白」の仕組みを捉え直すことを試みる。 |