本稿は西洋思想の影響によるエートスの変動が始まる前に、近代化以前の日本社會に存在していた固有のエートスとは何かについて論じてみるものである。エートスとは何か、また、エートスの変動という観點から見る場合の近代化とは何か、そして、分析視角としてのエートス概念の內実、並びにある社會の主要なエートスを実証的にとらえる時にそのエートスの擔い手を當該社會のいかなる人々に求めるかについては、小著を參照されたい。約言すれば、エートスとは、ある民族や社會に存在する、諸個人の集団的性質の中に宿る「信念」、「生活態度」、「倫理的態度」、またこれらによって形成された「倫理的生活雰囲気全體」である。本稿では、こうした立場に立って、エートス概念の內実をなすものとエートスの擔い手の設定といった先學の研究業績を拠り所としながら、近世日本の歴史事実に照らして近代化以前における日本固有のエートスとは何かを探究する。 |