「第一刷発行」が二〇一三年四月十五日付となっている村上春樹の最新刊長編小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡禮の年』(文芸春秋社)は、その題名からして「通過儀禮」の物語であることを示している。「巡禮」とは、宗教上の行為として、神聖な場所や寺院などをめぐって禮拝してまわることだ。この宇宙が創造された場所、宇宙の中心が象徴化された場所が聖地にほかならない。その聖地に到達することによって、巡禮をするその人が俗から聖、死から再生に向かうのである。ある社會的集団における儀禮的で、かつ象徴的でもある擬似的な死から、別な社會的存在へ誕生ないしは再生するという儀式の在り方は、多くの民族の通過儀禮(イニシエーション)に共通する特徴である。 |