村上春樹の多くの小説では、各章が必ずしも時間的に連続しているわけではない。さらに、小説における場面の転換が飛躍している。話は作品の時間軸から離れていきなり別の場面のに飛びつき、次章で、もとのストーリーに戻ってくる。このような不連続的な構造が村上春樹の小説の特徴の一つとして見られる。例えば、『風の歌を聞け』に多くの時間表現が見られる。だが、作中における時間表現はストーリーを明確にさせる機能を持たず、かえって作品を複雑にさせるだけである。『風の歌を聞け』の複雑な構造について、平野芳信が以下のように論じている1。 |