日本には、京都、奈良、鎌倉などの「古都」のほか、全国各地にも、いわゆる「小京都」といわれる多くの歴史的な景観を有する中小都市(たとえば、倉敷、金沢、山口など)が存在する。そこでは、幸運にも戦争による空襲や都市再開発による破壊を免れた歴史的な街並みが残り、国の内外からの多くの観光客の人気を集めてきた。もちろん、こうした都市景観は、観光資源としてだけではなく、そこに住む人々の快適な生活(amenity)を維持するためにも、極めて重要な価値を有しているが、それが自然に今後も承継されていくわけではない。むしろ、放置すれば、生活や経済活動の利便などのために、次第に失われていく運命にあるものといえる。日本のみならず、いずれの国においても、景観の悪化を食い止めるための法制度が求められる理由も、ここにある。もちろん、景観の保護の対象としては、ここで主として問題としている都市景観だけではなく、自然的景観も存在し、その保全も極めて重要である。しかし、その保全のための法制度を考える上で、都市の景観の保全には、自然的景観とは異なった難しさがある。以下、二点、指摘しておく。
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