グローバル化の時代とは交通の時代である。人間や物、情報が國や言語・文化を超えて移動し、そこで異質な環境と觸れ合うことによって、新しい所産がもたらされてくる潮流としてのグローバル化のなかに、現代世界の人びとは生きている。もちろんこうした交通はどの國のどの時代においても進行していたものであり、そこには相対的な差異しかないともいえる。日本で使われている漢字は3世紀前後に中國大陸ないし朝鮮半島から伝えられたものであり、神道と融合することによって日本人の宗教となっていった仏教は、6世紀にインドからやはり大陸・半島を経て伝わった文化である。また文學作品にしても、世界最古の長編小説として日本が誇る『源氏物語』には膨大な中國古典の文脈が取り込まれており、それは『太平記』や『雨月物語』といった中世、近世の代表的な作品においても同様である。近代においては影響の主たる源が中國から歐米に変わったが、近代文學の原點とされる『浮雲』(1887)をはじめとする二葉亭四迷の諸作品が、ロシア文學との接觸がなかったらもたらされなかったであろうことはいうまでもない。 |